犬・猫・ウサギ・フェレット・ハムスター等、小動物の診察・各種手術及び入院、術後のリハビリ【セントラル動物病院:尼崎・武庫之荘】

セントラル動物病院
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症例報告:

ネコの外傷性ヘルニア 【vol.1/vol.2vol.3vol.4

獣医師 山田 苗穂子

 

vol.1「先生、急患です!」朝一番に来院したのはぐったりしたネコちゃんです。名前は堀川チャコちゃん。大きな外傷や出血はなさそうですが、見るからに呼吸は苦しそうで舌の色も真っ青、緊急事態です。意識はしっかりしていますが、ほとんど動かずに横たわり、お腹の下のほうは不自然に腫れています。飼い主さんによると、前の晩から家に帰らず、事故に遭遇し、ふらつきながら帰って来たとのことでした。交通事故では目に見えるケガがなくても、肺からの大出血や内臓破裂の可能性があります。
まず血液検査とレントゲン撮影を行いました。肺野には明らかに異常がありました。ひょっとして肺からの出血でしょうか?これは大変です。さらに詳しい検査が必要ですが、呼吸状態が悪い場合、次々と検査をするわけにはいきません。ヘタに動かすとかえって命取りになることがあります。出血の可能性があるため、早く検査をしなければと気持ちはあせりますが、今のところ急激に悪化している様子はなさそうです。すこし休ませてから、肺や内臓の状態を確認するために超音波検査を行いました。すると、心臓と肺のあるべきところに肝臓がみえました。横隔膜ヘルニアです!
横隔膜とは、内臓と、肺や心臓の入っている胸の部分をしきっている筋肉の幕が破れて、内臓が肺と心臓を押しやっている状態なのです。肺出血は、大事に至るほどではなさそうでしたが、このままでは肺が圧迫されて苦しいだけでなく、飛び出している肝臓も圧迫を受け続ければ捻転や破裂をおこしかねません。時期を見極めて、早めの手術が最善の方法となります。
さらに、腫れあがったお腹は腹壁ヘルニアと判明しました。つまり腹筋が事故の衝撃で裂けてしまい、内臓が飛び出した状態になっているのです。皮膚のすぐ下は、筋肉の支えがない、むき出しの内臓というわけです。ただし、その他の検査では内臓そのものに損傷はないようでした。
横隔膜ヘルニア、腹壁ヘルニアの同時整復手術です。はたしてこの異常な呼吸状態で長時間の手術に耐えられるのでしょうか? 《つづく》


レントゲン1
レントゲン2
 

vol.2ところがチャコちゃんは強かった。
事故のあとは何も食べないくらい弱っていたので、検査後そのまま入院し、点滴と痛み止めを投与しました。すると次の日から、少しずつですが食欲が戻ってきたのです。呼吸は苦しそうですが、痛みがおさまったためか前日より落ち着いています。飼い主さんも、入院してから毎日励ましに来てくれています。精神的にも安定しているのでしょう。再検査でも悪化の様子はなく、これならいけそうです!入院してから3日目、手術決行行となりました。
横隔膜ヘルニア、腹壁ヘルニアの同時整復手術です。手術中の心拍、血圧は安定しています。通常の手術では自発呼吸といって、麻酔下でも自力で呼吸をするのですが、今回は手術中に肺の動きを調節する必要があるため、人工的に動かします。また、これによって手術中も安定した酸素濃度を維持しておくこともできます。
まず横隔膜ヘルニアから開始です。肋骨辺縁のあたりを切開し、横隔膜の破れてしまった部分を探します。今回は探すまでもなく、横隔膜のほぼ半分が肋骨に添うように裂けていました。そしてそこから胸腔内に飛び出た内蔵を傷つけないよう、慎重に引っ張りだし、腹腔に戻します。このときに血圧が急激に変化することがあるため、極めて慎重に、そして呼吸の調節も麻酔係と術者との連携が大切です。この突出部分、超音波検査時は肝臓だけでしたが、手術時は胃も突出しかかっており、これ以上待っていたらもっとひどい状態だったかもしれません。見たところ出血はほとんどなく、打撲による内出血も軽度です。圧迫されていた肺は、一部で血行が遮断されていたらしく、変色した部分もありましたが幸い小さいものでした。この程度であれば肺切除の必要はなさそうです。破れた横隔膜は意外にも良い状態で残っていたため、横隔膜の端を肋骨に巻きつけるようにし、しっかりと縫合しました。
は〜一同ひと安心。このあとの数日間、肺に合併症が出なければ問題なしです。
が・・・大変だったのは実は腹壁ヘルニアの方だったのです。《つづく》


 

vol.3一般的に、腹壁ヘルニアは合併症が少なく、開いてしまったお腹の筋肉を縫い合わせればOKです。しかし今回の場合は開いた範囲が大きく、しかも足の根元であったため、動くと縫い合わせた筋肉にかなりの緊張がかかります。簡単に言うと伸び縮みする余裕がありませんでした。「う〜ん、余裕はないけどしっかり内臓は元の位置に戻っているし、これでいいでしょう!」手術終了です。 ところがです。ネコちゃんが術後にじっとしてくれているわけがありません。2箇所も同時に手術したので、痛み止めを使っていても痛そうにうろうろとケージの中を動き回りだしました。そして数時間後、再びポッコリとふくれたお腹を見た瞬間、「・・・・・」。縫っていた糸が筋肉の動きに耐え切れず、切れてしまったのです。 これは・・・当然、再手術が必要です。ごめんね、チャコちゃん・・・
さて再手術までは、横隔膜ヘルニアの合併症を起こさないよう注意し、元気になって体力をつけてもらうことが一番です。腹壁ヘルニアの手術部位は再度開いたため赤くはれています。もちろん縫合がきつかったため筋肉の炎症が起こったのもあるのでしょう。消炎剤鎮痛をつかって腫れが引くのを待ち、次回の手術にそなえましょう。 このあと幸いにも横隔膜ヘルニアの合併症は出ず、呼吸は正常になり、痛みもおさまってみるみる元気になっていきました。ポッコリお腹をのぞいてはですが・・・.  《つづく》

イラスト
 

vol.4手術から10日後に抜糸も無事済み、ますます元気なチャコちゃんですが、その頃にはもうびっくりするほどにおなかのヘルニアは飛び出していました。おそらく腹腔内脂肪や腸、もしくは膀胱だと思われますが、動き回ると出てくるようで、一度はチャコちゃんの頭くらいの大きさになっていました。痛くはないはずですが、普通はしっかりおなかの中に納まっているはずの物です。いつ捻転が起こるかわかりません。それに、内容物が出たり入ったりを繰り返していると、ヘルニア開口部、つまり破れてしまった筋肉の穴が広がっていく恐れもあります。そろそろ2回目の手術が必要でしょう。しかし同じように縫い合わせるだけでは同じことの繰り返しです。どうしたものか?
ところで人間のヘルニアの場合、人工的に作ったメッシュ状のシートを、欠損部を埋めるのに使います。手術でシートを筋肉に縫い付けてしまうわけです。同じものを動物でも使った例はあるようですが、報告のある文献はいずれもアメリカのものですし、実際に使っている獣医師の話はあまり耳にしません。動物の体が人工物に拒否反応をおこすことはよくあります。ここはひとつ、外科手術の権威に聞いてみることにしました。
当院では、非常に複雑な骨折手術などを、大阪の岸上獣医科病院に依頼することがあります。院長である岸上先生は再生医療、例えば皮膚や骨の欠損してしまった部分を自己の組織を増やして元に戻すという研究をされています。今回は筋肉の欠損部です。さっそく電話してみました。するとよい知らせです。なんと当院で手術をしていただけることになりました。それだけではありません。岸上先生が研究をされている、京都大学の外科の先生までお越しいただけることになりました。
岸上先生のお話では、やはり人工のメッシュだけでは生体の異物反応が心配なため、生着しやすいようメッシュに特殊な加工を施し、ヘルニア部に縫合したらどうかということでした。これは獣医領域では初の手術になります!最先端です!きっとうまくいくことでしょう。手術は2週間後に決まりました。

 
 

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