「先生、急患です!」朝一番に来院したのはぐったりしたネコちゃんです。名前は堀川チャコちゃん。大きな外傷や出血はなさそうですが、見るからに呼吸は苦しそうで舌の色も真っ青、緊急事態です。意識はしっかりしていますが、ほとんど動かずに横たわり、お腹の下のほうは不自然に腫れています。飼い主さんによると、前の晩から家に帰らず、事故に遭遇し、ふらつきながら帰って来たとのことでした。交通事故では目に見えるケガがなくても、肺からの大出血や内臓破裂の可能性があります。
まず血液検査とレントゲン撮影を行いました。肺野には明らかに異常がありました。ひょっとして肺からの出血でしょうか?これは大変です。さらに詳しい検査が必要ですが、呼吸状態が悪い場合、次々と検査をするわけにはいきません。ヘタに動かすとかえって命取りになることがあります。出血の可能性があるため、早く検査をしなければと気持ちはあせりますが、今のところ急激に悪化している様子はなさそうです。すこし休ませてから、肺や内臓の状態を確認するために超音波検査を行いました。すると、心臓と肺のあるべきところに肝臓がみえました。横隔膜ヘルニアです!
横隔膜とは、内臓と、肺や心臓の入っている胸の部分をしきっている筋肉の幕が破れて、内臓が肺と心臓を押しやっている状態なのです。肺出血は、大事に至るほどではなさそうでしたが、このままでは肺が圧迫されて苦しいだけでなく、飛び出している肝臓も圧迫を受け続ければ捻転や破裂をおこしかねません。時期を見極めて、早めの手術が最善の方法となります。
さらに、腫れあがったお腹は腹壁ヘルニアと判明しました。つまり腹筋が事故の衝撃で裂けてしまい、内臓が飛び出した状態になっているのです。皮膚のすぐ下は、筋肉の支えがない、むき出しの内臓というわけです。ただし、その他の検査では内臓そのものに損傷はないようでした。
横隔膜ヘルニア、腹壁ヘルニアの同時整復手術です。はたしてこの異常な呼吸状態で長時間の手術に耐えられるのでしょうか? 《つづく》
|